なんでこんなに、悔しいんだろう。
なんでこんなに、悲しいんだろう。

なんでこんなに


寂しいんだろう。





……体が重い。

手足の感覚はとうの昔に無くなった気がする。
辛うじて保っている意識さえも、いつ消えてしまうのかわからない。

己が生きているのか死んでいるのか
それすらあやふやな状態で


脳裏に思い出されるのは

闇に呑み込まれた、親友の顔。



アイツは、あんなに悲しい目をしていたのに。
オレは、アイツを闇から救い出せなかった。

唯一出来たことと言えば、ただただ、自らの無力さを嘆くことだけ。



−……ごめん、サクラちゃん。約束……守れなかったってばよ。



遠のいていく意識の中で、花のように笑う少女の顔が浮かんだ。
その隣には、漆黒の髪を風に揺らす少年の姿。
……そして、いつも温かく見守ってくれる上司もいた。

それは ずっとずっと追い求めていた理想の仲間であり、家族だった。

そしてそれは、どんなに手をのばしても、決して届かないと思っていたもの。
自分には与えられる事も、手に入れる事も許されないと思っていたもの。



だから



その繋がりが消えてしまわないように、オレは必死で手を掴んだ。


もう、独りじゃないんだと。
心がじんわりあったかくって。くすぐったくて。
そう思わせてくれた、大切な人たち。
失いたくない、かけがえのない人たち。

耐えようの無い暗闇の中で もがいていたオレを、救い出してくれたんだ。

そんな人たちと離れたく無くて。ずっと一緒に笑ってたいなぁって思って。



でもそれってやっぱ、オレが勝手に夢見てただけなのかなぁ。



ある筈の無い翼が自分にもあると勘違いし、
あの大空を飛びたいと願う鳥のように。

それはとても滑稽な姿。

だって その鳥は 自分では決して飛ぶことが出来ない。
それでもいつも空を見上げてみては、気持ち良く青空を舞う自分を想像する。
どんなに願っても叶わないということにすら気付けないまま……。



オレはあっけなく意識を手放した。
視界が真っ暗になった。

……………
……



なんでこんなに、悔しいんだろう。
なんでこんなに、悲しいんだろう。

なんでこんなに


寂しいんだろう。





…………どれだけの時間が経ったのだろう。
1時間か、それとも1分しか経ってないのか。
自分の体の感覚は相変わらず鉛のように重たかった。

しかし、目を閉じていても感じる。
誰かの温もりを感じる。

あたたかくて、どこか悲しい感覚。


虚しさに押し潰されて腫れ上がった瞼を、そっと開けてみた。

「…カカシ先生…」


言いたいことも、聞きたいこともいっぱいあった。
でも、オレの口は考えるより先に言葉を紡いでいた。
「…サスケは…?」


返事はなかった。



先生の背中はあったかい。
でも、その温かさが

今は酷く痛かったんだ。




−…先生。オレってば……ワガママなのかなぁ。

−……先生とサクラちゃんと、サスケと…一緒に笑ってたいなぁって

−それってば…やっぱ、オレのワガママなのかな?




聞こえる筈がない、心の叫び。
それでも言ってほしい言葉がある。

『大丈夫だよ、ナルト』




先生、オレさ。
もう……独りぼっちは嫌なんだ。


だからさ。

どれだけアイツに嫌われても
オレは、アイツを連れ戻す。
どれだけアイツが拒んだとしても
オレは、アイツの手を掴む。


それでまた、みんなで一楽に行ったり、修行したりするんだ。
んで、くだらないことで喧嘩して。いっぱい笑って。


だからさ。

どれだけアイツがみんなを傷つけたとしても
オレは、アイツにこう言うんだ。




『とっとと帰ってきやがれ、サスケ!』


……そうしたら、アイツはきっとこう言う。


『うるせーよ、ウスラトンカチ』





そうやって悪態をついて。
でもきっと、その顔はすごく穏やかで。

その時はもちろん、サクラちゃんもカカシ先生も一緒。

だから。……だからさ。




今はもう少しだけ、背中を借して。





26巻を読み終えて、すごく切ないなぁと思って書きました。

裏切られることへの恐怖から、自らの手で繋がりを断ち切ろうとするサスケ。
そのサスケを「友達」だと信じ、最後まで全力で救おうとしたナルト。

2人が肩を並べて笑い合える日は、
もしかしたら一生来ないのかもしれません。

それでも願わずにはいられないのです。




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