木々の間を颯爽と通り抜けて行く人影。

静かな森の中に、勢いのある声がこだまする。



「ひゃっほぉおー!!今日は風が気持ち良いぜ!なっ、赤丸!」
「ワンワン!」


枝から枝へ 獣のように飛び移るその姿は、どこか美しさすら感じさせる。


「キ、キバ君、なんだかすごく楽しそう」
「……こんなに晴れたのは久々だからだろう…」


「おい、お前ら!チンタラしてっとおいてくぞー!」
「ワン!」
「あっ、キ、キバ君 待って!」





この数日間、木ノ葉隠れの里では雨の日が続いていた。

そのせいか、水分をたっぷり吸い込んだ土の匂いが辺りを包む。
葉から滴る雫はキラキラと光り、小鳥たちのさえずりが心地良い。

しばらく感じることの出来なかった太陽の眩しさが、
妙にくすぐったくて。



せっかくこんな天気に恵まれたのに、それを喜ばないだなんて。
そんなの、勿体ない。


「よっしゃ、赤丸!もっとスピード上げるぜー!」
「ワンワン!」
「……あまり調子に乗らない方がいい。まだ、枝も濡れている……」
「あーもー!うっせーんだって!
 それくらい、オレも赤丸もわかってるっつーの!」
「で、でも……気をつけてね」
「お前に心配されるほど、オレたちは馬鹿じゃねーんだよ」
「あ……、ご、ごめんね」


顔を赤くしながら、しょんぼりと顔を下げるヒナタ。
そんな様子を察したのか、赤丸までもが悲しそうな顔でキバを見ている。

「な、なんだよ赤丸」
「クゥーン」
「別にこれくらい、いつものことだろ!」
「ワン…」
「……なんだよ、そんな顔すんなよ」


つい先程まで元気よく走っていた赤丸だったが、
まるでヒナタの落ち込み方をそっくりそのまま写したかのように
今度は一転して暗い表情になってしまった。


「おい赤丸!なんなんだよ、もー!」
「……クーン」
「ったく。まるでオレが悪者みてーじゃねーかよ」
「ワン!」
「げ!即答しやがったなコイツ!!」



その瞬間 キバの見ていた世界が ぐるりと反転する。

「あっ!」





……気付いた時には、既に遅かった。


(マズイ、このままじゃ 落ちる!ってゆーか、もう落ちてる!)


枝から離れた足は宙を彷徨う。
咄嗟に枝を掴むが、次の瞬間には「ポキッ」と軽い音をたてた。


「くそ!」

強い日差しを真正面から受けて、キバは叫んだ。
そしてもう一度、枝に手をのばす。



しかし、手が届かない。

何故なら、キバの両手はしっかりと掴まれていたから。




「……だから気をつけろと言っただろう…」
「だ、大丈夫?怪我とか無いかな」
「ワン!」


左手をシノに。右手をヒナタに。



「……ッチ!」


恥ずかしさと悔しさで
キバは二人と目を合わせる事が出来ない。


「ワンワン!!」
「……赤丸」
「ワン!」
「……はいはい、わかってるっつーの」



シノとヒナタに引っ張り上げられる形で、キバは太い枝の上に立った。
そして観念したしたかのように、はぁ とひとつ息をついた。


「あ、……ありがとう……」

(ああヤッベー!今、ぜってー変な顔してるよオレ……!)



柄にも無く顔を赤くするキバとは反対に、涼しげな表情のシノ。
「……猿も木から落ちる、とは。先人はよく言ったものだ」

「なっ!!シノ、てめー、やんのかっ!」
「ワンワン!」
「赤丸止めんなっ!やっぱコイツ、気に入らねー!!」
「あ、あの。キバ君落ち着いて」
「うっせー、ヒナタは黙ってろ!」
「うっ……で、でもね」


「怪我とかしてないみたいで、よ…良かった」


その笑顔が、あまりに優しくて。

キバはもう、シノへ向けた拳を振り上げるのを諦めた。




しばらくして。
静かな森の中に、勢いのある声がこだまする。



「ひゃーっほーー!赤丸っ!もっと飛ばしてくぜー!」
「ワンワンワン!」
「……もう忘れたのか。二度も助けてやらんぞ…」
「だーーー!うっさい!わかってるっつーの。気をつければいいんだろ!」
「キバ君……」
「だから気をつけるってば!それに」
「…そ、それに?」



(虫オタク野郎のシノが考えてることはよくわかんねーけど)

(ヒナタはオレのこと本当に心配してくれてたみたいだし……)

(まー、その、なんだ。感謝してる……なんて口が裂けても言えねー!)



「な、なんでもねーよ!」


精一杯強がる主人を見上げて、赤丸は満足そうに「ワン!」と笑った。





今度は8班です。大好きです!

キバとシノはしょっちゅう衝突してると思います。
そしてヒナタがおどおどしながら仲裁に入って、結局怒られる。

とはいえ、ヒナタの笑顔と赤丸の愛らしさ+紅さんのお色気
この三要素で8班のチームワークは成り立っているのではと思います(本気




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